佐藤優

ここで筆者が言う反知性主義とは、実証性と客観性を軽視もしくは無視して、自分が欲するように世界を理解する態度を指す。反知性主義には、知識をエリートが独占していることに対する異議申し立てという民主主義的側面もある。

 

十九世紀末から二十世紀初頭に活躍したロシアの哲学者レフ・シェストフ、セルゲイ・ブルガーコフらは、合理主義を反知性主義によって克服しようとした。しかし、シャストフやブルガーコフらの高度な教養と知性を持った人々の反知性主義は、社会に根付かなかった。その代わりに、レーニンやスターリンなど、「われわれに従うことが絶対に正しい」という共産主義イデオロギーを掲げた反知性主義者が社会主義革命を起こし、権力を奪取した。

 

ソ連共産主義も、その出発点においては、民主主義を最大限に活用したことを忘れてはならない。反知性主義は、知的エリートの政治に対する批判原理としては、民主的機能を果たすことがあるが、反知性主義者が権力を掌握した場合、大多数の国民に不幸をもたらすと筆者は考える。

『知性とは何か』(p.3-5)

 

参照:http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43745

関連:http://hideasasu.hatenablog.com/entry/2015/05/20/225703