カント

我々が一切の可能的存在者のうちの最高存在者と思いなす存在者は、「私は始めなく終わりなく永遠に存在を続ける。私のほかには、また私の意志によってのみ存在するもののほかには、何ひとつ存在しない。しかしこの私はいったい何処から来たのか」と、いわば独語するのである。我々は、かかる想いの生じるのをいかんともし難い、しかしまたかかる想いを持つに堪えない。ここにおいて一切のものは、我々の脚下から崩れ去る、そして最大の完全も最小の完全も、これを支えるものとてはなく、思弁的理性の前に徒らに漂うばかりである。しかもこの思弁的理性は、なんらなすすべもなくただ手を拱いてこれを消滅するにまかせるのである。

『純粋理性批判』