半藤一利

幕末・明治維新、太平洋戦争をよく見てまいりますと、国家が外圧に直面するときは、状況も人間のあり方も似ています。そしてハッキリしているのは、大きな断絶が目の前に近づくと、そこが日本人の特性というか、心情というか、往々にしてナショナリズムに行っちゃうんですよね。

そして攘夷の精神を呼び覚まされるのは幕末の志士だけに限らないんです。幕末も太平洋戦争の直前も、日本全体が簡単に熱狂してしまった。

日本人は外圧によってナショナリストになりやすいようです。いいかえれば、時代の空気にたちまち順応するということになる。状況の変化につれて、どうにでも変貌できる。そんな人たちは、戦争の悲惨の記憶が失われて、時間が悲惨を濾過し美化していくと、それに酔い心地となって、再び殺戮に熱中する人間に変貌する可能性があるのじゃないでしょうか。
じゃあ、熱狂に流されないためにはどうしたらいいか、と問われれば、歴史を正しく学んで、自制と謙虚さをもつ歴史感覚を身につけることです、と答えることにしています。

『あの戦争と日本人』(p.34-38)