小林秀雄

仏教によって養われた自然や人生に対する観照的態度、審美的態度は、意外に深く私達の心に浸透しているのであって、丁度雑踏する群衆の中でふと孤独を感ずる様に、現代の環境のあわただしさの中で、ふと我に還るといった様な時に、私はよく、成る程と合点するのです。まるで遠い過去から通信を受けた様に感じます。決して私の趣味などではない。私はそう思わぬ。正直に生きている日本人には、みんな経験がある筈だと思っています。人間は伝統から離れて決して生きる事が出来ぬものだからであります。

「私の人生観」