見田宗介

アメリカ原住民のいくつかの社会の中にも、それぞれちがったかたちの、静かで美しく、豊かな日々があった。彼らが住み、あるいは自由に移動していた自然の空間から切り離され、共同体を解体された時に、彼らは新しく不幸になり、貧困になった。経済学の測定する「所得」の量は、このとき以前よりは多くなっていたはずである。貧困は、金銭をもたないことにあるのではない。金銭を必要とする生活の形式の中で、金銭をもたないことにある。貨幣からの疎外以前に、貨幣への疎外がある。この二重の疎外が、貧困の概念である。

 現代社会の理論』

※太字=原文傍点