山本七平
だが、公害問題に取り組んだ人たちは、みな、まじめで真剣なのである。また昔の青年将校も、実にまじめで真剣であった。それは否定できない。だが、氏(引用者注:吉田信美)の言う通り「おっちょこちょい」なのである。なぜか、私はここで周恩来首相が田中元首相に贈った言葉を思い出す。「言必信、行必果」*1(これすなわち小人なり)と。この言葉ぐらい見事な日本人論はない。
この言葉はおそらく全日本人への言葉だと思うが、これを「小人(おっちょこちょい)」と読めば、何と鋭く日本人なるものを見抜いたものだろうと、思わず嘆声が出る。「やると言ったら必ずやるサ、やった以上はどこまでもやるサ」で玉砕するまでやる例も、また臨在感的把握の対象を絶えずとりかえ、その場その場の“空気”に支配されて、「時代先取り」とかいって右へ左へと一目散につっぱしるのも、結局は同じく「言必信、行必果」的「小人」だということになるであろう。大人とはおそらく、対象を相対的に把握することによって、大局をつかんでこうならない人間のことであり、ものごとの解決は、対象の相対化によって、対象から自己を自由にすることだと、知っている人間のことであろう。
『「空気」の研究』(p.63-64)