山本七平

だが、公害問題に取り組んだ人たちは、みな、まじめで真剣なのである。また昔の青年将校も、実にまじめで真剣であった。それは否定できない。だが、氏(引用者注:吉田信美)の言う通り「おっちょこちょい」なのである。なぜか、私はここで周恩来首相が田中元首相に贈った言葉を思い出す。「言必信、行必果*1(これすなわち小人なり)と。この言葉ぐらい見事な日本人論はない。
この言葉はおそらく全日本人への言葉だと思うが、これを「小人(おっちょこちょい)」と読めば、何と鋭く日本人なるものを見抜いたものだろうと、思わず嘆声が出る。「やると言ったら必ずやるサ、やった以上はどこまでもやるサ」で玉砕するまでやる例も、また臨在感的把握の対象を絶えずとりかえ、その場その場の“空気”に支配されて、「時代先取り」とかいって右へ左へと一目散につっぱしるのも、結局は同じく「言必信、行必果」的「小人」だということになるであろう。大人とはおそらく、対象を相対的に把握することによって、大局をつかんでこうならない人間のことであり、ものごとの解決は、対象の相対化によって、対象から自己を自由にすることだと、知っている人間のことであろう。

『「空気」の研究』(p.63-64)

 

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*1:「子貢問曰、何如斯可謂之士矣、子曰、行己有恥、使於四方不辱君命、可謂士矣、曰、敢問其次、曰、宗族称孝焉、郷党称弟焉、曰、敢問其次、曰、言必信、行必果、脛脛然小人也、抑亦可以為次矣、曰、今之従政者何如、子曰、噫、斗肖之人、何足算也」(『論語』)