小林秀雄

宣長は、「あはれ、あはれ」で暮らした歌人ではなく、「あはれという物」を考え詰めた学者である。歌は下手であったが、何故下手か、何故下手で差し支えないかを、はっきり考えていた人だ。(中略)理を怖れ、情に逃げた人ではない。彼は、もうこの先きは考えられぬという処まで、徹底的に考える事の出来た強い知性の持主であった。

(「考えるという事」)