小林秀雄

政治の取扱うものは常に集団の価値である。何故か(この何故かという点が大切だ)。個人の価値に深い関心を持っては政治思想は決して成り立たないからだ。ここにこの思想の根本的な或は必至の欺瞞がある。この必至の欺瞞の為に、政治は自然の速度を加減しようという人間的暴力によって始りながら、いつも人間を軽蔑する物質的暴力となって終るのである。

(「Xへの手紙」)