ドストエフスキー

およそ直情型の人間ないし活動家が行動的であるのは、彼らが愚鈍で視野が狭いからである。[…]彼らは視野が狭いために、手近にある第二義的な原因を本源的な原因ととりちがえ、それでほかの人間より手っとり早く、簡単に、自分の行動の絶対不変の基礎が見つかったように思いこみ、そこでほっと安心してしまうのである。[…]ぼくなどはさしづめ思索の訓練を積んでいるから、どんな本源的原因をもってきても、たちまち別の、さらにいっそう本源的な原因がたぐり出されてきて、これが無限につづくことになるだろう。そもそもあらゆる意識ないし思索の本質はまさしくそういうものなのだ。

(『地下室の手記』/新潮文庫版28頁)