徳富蘇峰

真正の達人は、その限りあるを知れり。しかして独りこれを知るのみならず、限りあるに満足せり。彼らは絶望的に断念するにあらず、絶望的に放浪するにあらず、希望的に満足するなり。東坡が玲瓏観に登るの詩に曰く、「脚力尽くる時、山更に好し。限り有るを将て窮まりなきを趁うなかれ」と。嗚呼これ安心立命の法なり。

『静思余録』