埴谷雄高

私は嘗て、一票を投ずることによって一日だけ主権者になることが絶えざる主権者とならないことの免罪符となる、と書いたことがありますが、現在は、一票を投ぜないことによって一日だけ否定者になることが絶えざる否定者とならないことの免罪符となる、とでも言い換えねばならぬ時代なのではないかと思われるほどです。そこで敢えていえば、投票はしないけれども、名前は自由に、という分裂症的行為を私がこんどとったことには、(…)何故投票し得ないのか、についての徹底的な探求と論議がそのような投票へ赴かない季節の現在のなかに起ることをまた期待しているところの挑発的行為が含まれているといえましょう。

「自立と選挙」/『埴谷雄高政治論集』

強調引用者