亀井勝一郎

絶望して自殺すると言いますが、絶望とは何か。人間的に言えば、それは一の希望なのです。(…)絶望による自己否定によって、第二の自己を形成しようとする点で、それは一の希望なのです。自殺はこの希望すら放棄するのですから、完全絶望とも言えましょうが、さきにふれたごとく、自殺しうるという希望だけは最後まで保有してきたわけです。人間的能力への究極の確信なのです。或る意味で野心であり、虚栄ですらあるかもしれませぬ。一種の自己賛美とも言えますまいか。決して自己放棄ではありませぬ。

愛の無常について