小坂井敏晶

近代的道徳観や刑法理念においては、自由意志の下になされた行為だから責任を負うと考えられている。しかし責任の正体に迫るためには、自由意志に関する我々の常識を改めなければならない。責任が問われる時、時間軸上に置かれた意志なる心理状態と、その結果たる出来事とを結ぶ因果関係が問題になるのではない。実は論理が逆立ちしている。自由だから責任が発生するのではない。逆に、我々は責任者を見つけなければならないから、つまり、事件のけじめをつける必要があるから、行為者が自由であり、意志によって行為がなされたと社会が宣言するのである。言い換えるならば、自由意志は、責任のための必要条件ではなく、逆に、因果論的な発想で責任を把握する結果、論理的に要請される社会的虚構に他ならない。

『人が人を裁くということ』

 

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