永井均

すでに実現されている平々凡々たる現実こそが、平々凡々たる現実であるからこそ、最も困難な、最も微妙な課題であり、規範ですらある、というこの認識は、いろいろな場合にとても重要な意味をもつ、とぼくは思う。
個人についてではなく、社会についても、同じようなことがいえるだろう。世の中をよくするよりもそのまま維持することのほうが、むしろ困難で微妙な課題だろう。善悪についても、そうだろう。極端な善人もいれば極端な悪人もいて、その中間にいろんな人がいる。そして、それこそがよい状態なのだ。それは与えられた現実であると同時に実現すべき課題なのだ。

『〈子ども〉のための哲学』

※太字=原文傍点