池谷裕二

繰り返しになるけど、「正しい」「間違い」という基準はなく、むしろ、その環境に長く暮らしてきて、その世界のルールにどれほど深く順応しているかどうかが、脳にとっては重要だってこと。
もう一歩踏み込んで言えば、「正しい」というのは、「それが自分にとって心地いい」かどうかなんだよね。その方が精神的に安定するから、それを無意識に求めちゃう。つまり、「好き」か「嫌い」かだ。自分が「心地よく」感じて「好感」を覚えるものを、僕らは「正しい」と判断しやすい。
実際、普段の生活の中で、だれかに対して「それは間違ってるよ」と偉そうに注意するときって、その「間違ってる」を、「おれはその態度が嫌いだ」と言い換えても意味は同じだよね。「正しい」「間違い」って、脳にとっては、個人的な、あるいは社会的な意味での「好悪」のバランスの問題になってくるんじゃないかな。

 『単純な脳、複雑な「私」』