清水博

仏教について驚嘆するのは、生きている自然の全体像がほとんど科学的に捉えられている点です。人間と自然とが動的に協力しあってより大きい糸における秩序を形成している様子、そして、このより大きい秩序の形成の中で人間が存在を与えられている様子がはっきりと示されています。

しかし(…)仏教の自然観の中に、社会という階層が入っていないのが気になります。自然の階層構造からいうと、個体と自然の中の大きい糸の間には、生物のさまざまの集団や社会が存在しています。たとえば人間の場合、自然に対して大きな影響力を持っているのは、一人一人の個人ではなくて、人間の社会なのです。

 『生命を捉えなおす』