コンラート・ローレンツ

私は自然科学者であって、芸術家ではない。だから私にはまったくなんの自由も「様式化」も許されない。しかし、動物がいかにすばらしいものであるかを読者に物語ろうとするとき、このような自由はすこしも必要ではない。むしろ、動物の話を書くときにも、厳密な科学論文の場合と同様に、ひたすら事実に忠実であるほうが、適切でさえあると思う。なぜなら、生ある自然の真実はつねに愛すべき、畏敬に満ちた美しさをもっており、人がその個々の具体的なものを奥深くきわめればきわめるほど、その美はますます深まってゆくものだからだ。もし、研究の客観性、理解、自然の連繋の知識というものが、自然の驚異への喜びをそこなうなどと考えたとしたら、これほどばかげたことはない。むしろその逆なのだ。自然について知れば知るほど、人間は自然の生きた事実にたいしてより深く、より永続的な感動を覚えるようになる。立派な業績を残したすぐれた生物学者たちはみな、生きものの美しさへのつきぬ喜びからその職業についたのだろうし、その職業から育ってきた理解がさらに自然への愛と研究を深めているのだと思う。

『ソロモンの指環』(p.5)