長谷部恭男

調整問題状況とは、大多数の人が取るような行動にあわせて自分も行動しようと大多数の人が考える状況のことである。道路の交通規則からはじまって手形の振出し方や国会議員の任期にいたるまで、世の中には、一定の範囲内でどう決まってもさして変わりはないが、とにかく決まっていてくれなければ困ることがたくさんある。

道路の交通規則のようなある種の調整問題は、反復・継続して発生する。このような状況は、社会生活のなかで自然に生ずる慣習によっても、また何らかの権威に従うことによっても解決できる。この種の問題状況に直面した人々は、いずれかの選択肢を指定する慣習や法令に一致して従うことに、全員が利益を見出すことになる。

調整問題状況においては、いったん慣習や法令によって一定の選択肢が支持されれば、それに一致して従うことがすべての人の利益にかなう。各自の利益の最大化を目指す行動が同時に社会全体の利益にかなう行動でもある。これに対し、囚人のディレンマ状況においては、各当事者がそれぞれ独自に、各自にとって最善の利益を目指して行動すると、かえって全体として最善の結果に到達することができない。

『憲法と平和を問いなおす』(p.131-133)

参考:合成の誤謬 - Wikipedia

 

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