和辻哲郎

一方において行為する「個人」の立場は何らかの人間の全体性の否定としてのみ成立する。否定の意味を有しない個人、すなわち本質的に独立自存の個人は仮構物に過ぎない。しかるに他方においては、人間の全体性はいずれも個別性の否定において成立する。個人を否定的に含むのでない全体者もまた仮構物に過ぎない。この二つの否定が人間の二重性を構成する。しかもそれらは一つの運動なのである。

『倫理学』

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