親鸞

善人なをもて往生をとぐ、いはんや悪人をや。しかるを、世のひとつねにいはく、悪人なを往生す、いかにいはんや善人をや。この条一旦そのいはれあるににたれども、本願他力の意趣にそむけり。そのゆへは、自力作善のひとは、ひとへに他力をたのむこゝろかけたるあひだ、弥陀の本願にあらず。しかれども、自力のこゝろをひるがへして、他力をのみたてまつれば、真実浄土の往生をとぐるなり。煩悩具足のわれらは、いづれの行にて生死をはなるゝことあるべからざるを、あはれみたまひて願をおこしたまふ本意、悪人成仏のためなれば、他力をたのみたてまつる悪人、もとも往生の正因なり。よて善人だにこそ往生すれ、まして悪人はと、おほさふらひき。

唯円歎異抄』(第三条)


参照:「梅原猛の『歎異抄』入門」

関連:http://hideasasu.hatenablog.com/entry/2015/05/12/105606