高橋昌一郎

認知科学 そこで非常に興味深いのは、スタノヴィッチの二重過程理論によれば、ヒトの脳内の「自律的システム」は遺伝子の利益を優先し、「分析的システム」は個体の利益を優先していると解釈できることなのです。

 

会社員 (…)時として我々が意味不明な行動を取るのは、我々の内部に遺伝子を優先するシステムと自己を優先するシステムが競合しているためなんですね。

 

認知科学 まだ確立されたわけではありませんが、スタノヴィッチの学説によれば、まさにそのような競合がヒトの脳内で生じていることになります。
たとえば、マズローの「生理的欲求」や「安全の欲求」は、明らかに遺伝子と個体の両方の利益にかなっていますね。しかし、「愛情と所属の欲求」や「承認の欲求」や「自己実現の欲求」というように個体の利益に重心が移ると、必ずしも遺伝子の利益に直結するとは限りません。
一方、繁殖期を過ぎたヒトの細胞は徐々に機能しなくなり、「老化」するように遺伝子に組み込まれています。周期的に世代交代が生じなければ進化しませんから、こちらは逆に個体の利益とは対立する遺伝子の利益とみなせます。

 

進化論者 ダーウィンの進化論から百五十年を経て、私たちは、ダーウィニズムの導く「遺伝子」対「個体」という真の驚愕の意味に気付き始めたばかりなのです。

『感性の限界』(p.137-138)

 

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