ダニエル・カーネマン

私たちは、自分自身の判断や意思決定をどうしたら向上させられるだろうか。ついでに、上司や部下の判断と意思決定を向上させるにはどうしたらいいだろう。一言で言えば、よほど努力をしない限り、ほとんど成果は望めない。経験から言うと、システム1*1にものを教えても無駄である。私自身の直感的思考は、ささやかな改善(その大半は年齢によるものだ)を除き、相変わらず自信過剰、極端な予想、計画の錯誤に陥りやすい。その度合いは、この分野の研究を始める前と、じつはさして変わらないのである。私が進歩したのは、いかにもエラーが起こりそうな状況を認識する能力だけである。「この数字がアンカーになりそうだ」「問題のフレーミングを変えたら、この決定にはならないだろう」といった具合に。一方、自分が犯したエラーではなく、他人のエラーを認識することにかけては、大いに進歩したと思う。

『ファスト&スロー(下)』(p330)

 

参考:汝自身を知れ - Wikipedia

関連:http://hideasasu.hatenablog.com/entry/2015/05/15/184104

*1:引用者注:「・「システム1」は自動的に高速で働き、努力はまったく不要か、必要であってもわずかである。また、自分のほうからコントロールしている感覚は一切ない。
・「システム2」は、複雑な計算など頭を使わなければできない困難な知的活動にしかるべき注意を割り当てる。システム2の働きは、代理、選択、集中などの主観的経験と関連づけられることが多い。」
同書上巻 p41)