池谷裕二

進化の話をするとき、ヒトには楽しいとかユーモアというポジティブな感情があるけれども、下等な動物にはなさそうだ、だからヒトのほうが高等だと考える人がいます。たしかにそういう側面はあるかもしれませんが、私はこういう考えをあまり持ちません。むしろ、楽しいという感情が、ヒトやサルなど比較的高等な哺乳類にしかないとしたら、楽しいという感情は生命の維持という基本機能において、あまり重要ではないだろうと考えます。

感情でいえば、下等な動物が備えている感情こそが、生命にとってより本質的といえます。ですから、ネズミが恐怖感を持っているということは、恐怖感が生命を維持するうえで重要だからと考えられます。

 『脳はなにかと言い訳する』