アダム・スミス

エピルスの王の寵臣が王に言ったことは、人間生活の普通の境遇にあるすべての人びとにあてはまるだろう。王は、その寵臣に対して、自分が行なおうと企てていたすべての征服を順序だてて話した。王が最後の征服計画について話し終えたとき、寵臣は言った。「ところで、そのあと陛下は何をなさいますか」。王は言った。「それから私がしたいと思うのは、私の友人たちとともに楽しみ、一本の酒で楽しく語り合うということだ」。寵臣はたずねた。「陛下が今そうなさることを、何が妨げているのでしょうか」。

 『道徳感情論』(水田洋訳 岩波文庫