池谷裕二

哲学では「存在とは何ぞや」と、大まじめに考えていますが、大脳生理学的に答えるのであれば、存在とは「存在を感知する脳回路が活動すること」と、手短に落とし込んでしまってもよいと思います。つまり私は「事実(fact)」と「真実(truth)」は違うんだということが言いたいのです。
脳の活動こそが事実、つまり、感覚世界のすべてであって、実際の世界、つまり「真実」については、脳は知り得ない、いや、脳にとっては知る必要さえなくて、「真実なんてどうでもいい」となるわけです。

『単純な脳、複雑な「私」』