ホッブス

自然は人間を心身の諸能力において平等につくった。…この平等性が信じがたいものであるとするのは、おそらくは人が自分の知恵について抱く自惚れである。大部分の人間は、自分を自分以外のほんの少数の、名声があるとか自分と意見が一致するとかによって是認している人々を除く他の一般大衆に比べて、自分ははるかに知恵を抱いていると考えている。つまり多くの人が自分より知力に富み、雄弁で知識があることを認めながらも、しかもなお、自分と同じ程度に賢明な人間が大勢いると信じようとしないのが人間の本性である。…その能力の平等から、目的達成に際しての希望の平等が生じる。それゆえ、もしも二人の者が同一の物を欲求し、それが同時に享受できないものであれば、彼らは敵となり、その目的に至る途上において、互いに相手を滅ぼすか、屈服させようと試みる。

人間だれしも自己評価と同じ高さの評価を仲間に期待する。そして軽蔑とか過小評価とかのどのようなしるしに出会っても、彼らには害を与え、また他の者にはこれを見せしめにすることによって、彼らからより大きな評価を引き出そうと努力する。…人間の本性には、争いについての主要な原因が三つある。第一は競争、第二は不信、第三は自負である。第一の競争は、人々が獲物を得るために、第二の不信は、安全を、第三の自負は名声を求めて、いずれも侵略を行わせる。…第三は一語、一笑、意見の相違、その他過小評価のしるしになる些末事に関して、それらが直接に自己の人格に向けられたか、間接に自己の親戚、友人、国民、職業あるいは名称に向けられたかを問わず、暴力を用いさせる。

『世界の名著〈28〉ホッブズ』

太字引用者

 

参照:http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/50665/1/KJ00000047137.pdf(p.11)

 

関連:http://hideasasu.hatenablog.com/entry/2015/02/25/190306
http://hideasasu.hatenablog.com/entry/2015/09/21/212911