北村透谷

つら/\思ふに、寂滅為楽の幽妙なる仏味と宗教的虚無思想が吾人の中に存して、吾人の生霊を支配せし事久し、貴族的思想の族長制度と印度教との父母より生れて、堅く其地歩を占め、以て平民的共和思想の発達を妨げ居たる事も既に久し、空漠たる大空を理想とする想像に富める哲学者は多けれど、最後の円満なる大理想境に思ひを馳(は)する者はあらず、何事も消極的に退縮して、人生の霊現なる実存を証(あかし)することなく、徒らに虚無縹渺(へう/″\)の来世を頼む、斯の如くにして活気なき国民となり、萎縮しやすき民人となりて、今日の形勢には推し及びぬ。

「一種の攘夷思想」

 

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