吉川浩満

「生物は運がわるいせいで絶滅する」と言うとき、ラウプはたんに運が大事だと指摘しているのではない。それだけではなく、生物の歴史における運の独特な働きかたに目を向けるよう私たちに促しているのである。そうすることで、恐竜や哺乳類の理不尽な絶滅と生存の事例で見たように、遺伝子を競うゲームが運によってもたらされる事態、二重の不運と二重の幸運、公正なルールの不公正な導入、公平な運の不公平な適用といった、生物の存亡を左右する微妙で複雑な運の働きかたを確認することができる。
それに、絶滅現象、とりわけ大量絶滅事変による理不尽な絶滅は、生物進化の歴史において重大な役割を担ってきたことが知られている。生物の歴史における適応上の飛躍的革新の多くは、大規模な大量絶滅、とくにビッグ・ファイブの終結後にもっとも顕著に認められる。そうした理不尽な絶滅においては、特定の種のグループ全体がごっそりと消え去るといったことが起こるが、その跡地こそが、つづく革新的進化のためのステージになるのである。ヒトを生みだしたことで全地球的規模の影響力をもつにいたった哺乳類の革新的進化も、恐竜の絶滅という事件が開いた広大な地理的・生態学的な空白によって、はじめて可能になったものである。

『理不尽な進化』(p78-79)


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