志賀直哉

人間が出来て、何千万年になるか知らないが、その間に数えきれない人間が生まれ、生き、死んで行った。私もその一人として生まれ、今生きているのだが、例えていえば悠々流れるナイルの水の一滴のようなもので、その一滴は後にも前にもこの私だけで、何万年溯っても私はいず、何万年経っても再び生まれては来ないのだ。しかも尚その私は依然として大河の水の一滴に過ぎない。それで差支えないのだ。

「ナイルの水の一滴」

 

参照:http://www.ne.jp/asahi/sindaijou/ohta/hpohta/fl-siganaoya/siga02-sukui.htm
関連:http://hideasasu.hatenablog.com/entry/2015/03/18/081230