小室直樹

人間はともすれば、自分の自由意志で動いているようについ思ってしまう。権威なんかなくても自分の頭だけで生きていけると思うわけですが、社会科学は「それは幻想にすぎない」ということを教えています。
人間とは社会的存在であって、本当の意味での「個人」は存在しないのです。
人間が生きていくためには、何らかのガイドラインがなければならない。そのガイドラインとなるのが、規範であり、モラルなのですが、そうしたものを作るのが他ならぬ権威なのです。
もし、そうした権威がなくなってしまえば、その人は人間的に生きていくことが不可能になる。ある人は猛獣のようになるし、ある人は植物のように動かなくなる。それが急性アノミーであるというわけです。

『日本人のための憲法原論』(p.486)