森田真生

本書は、自然数(1以上の整数)という概念が、私たちの脳にとっては決して「自然」なものでない、ということの論証からはじまる。


私たちが生物として持っている「数覚」は、自然数の概念のように離散化されたものではなく、もっと連続的でアナログなものだというのだ。したがって、私たちは曖昧な計算には長けていても、正確な計算では到底コンピュータに及ばない。(一方で、コンピュータが私たちのような曖昧な計算を真似しようと思ってもなかなかできない。コンピュータは間違うのが不得意だ)脳と計算機ではそもそもの設計が違うのだ。


そこで、脳に本来備わっている「数覚」の欠陥を補い、あるいは拡張すべく構成されきたのが「自然数」という人工物だというのだ。脳内にはじめから備わっていた数の概念をモデル化したのが自然数のシステムなのではなく、脳にはない能力を外部に構成してきたものこそが「自然数」なのである。


私たちの存在とは無縁のプラトニックな世界を仮定して、そこにあらかじめあらゆる数学的対象が存在していると考える「静的」なプラトニズムに対し、本書が提示するのは、環境と脳の相互作用の中で、そのあいだに構成されていくものとしての数学という「動的」な数学観である。

書評:『数覚とは何か?』 スタニスラス ドゥアンヌ著