ソクラテス

しかしながら、諸君、真に賢明なのは独り神のみでありまた彼がこの神託においていわんとするところは、人智の価値は僅少もしくは空無であるということに過ぎないように思われる。そうして神はこのソクラテスについて語りまた私の名を用いてはいるが、それは私を一例として引いたに過ぎぬように見える。それはあたかも、「人間達よ、汝らのうち最大の賢者は、例えばソクラテスの如く、自分の智慧は、実際何の価値もないものと悟った者である」とでもいったかのようなものである。それだからこそ私は今もなお神意のままに歩き廻って、同市民であれまたよそ者であれ、いやしくも賢者と思われる者を見つければ、これを捉えてこの事を探求しまた闡明しているのである。そうして事実これに反することが分かれば、私は神の助力者となって、彼が賢者でないことを指摘する。またこの仕事あるが故に、私は公事においても私事においてもいうに足るほどの事効を挙ぐる暇なく、神への奉仕の事業のために極貧の裡に生活しているのである。

プラトン『ソクラテスの弁明』(p.23-24)


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