西田正規

さて、定住者は、家や集落の清掃に気を配り、丈夫な家を建て、ごく限られた行動圏内で活動し、社会的な規則や権威を発達させ、呪術的世界を拡大させるといった傾向を持つことになる。このように考えてくると、従来、ともすれば農耕社会の特質と見なされてきた多くの事柄が、実は農耕社会というよりも、定住社会の特質としてより深く理解できるのである。(p.34)

遊動民のキャンプ移動の持つ機能は、生活のあらゆる側面にかかわっている。遊動生活とは、ゴミ、排泄物、不和、不安、不快、欠乏、病、寄生虫、退屈など悪しきものの一切から逃れ去り、それらの蓄積を防ぐ生活のシステムである。 移動する生活は、運搬能力以上の物を持つことが許されない。わずかな基本的な道具の他は、住居も家具も、さまざまな道具も、移動の時に捨てられ、いわゆる富の蓄積とは無縁である。 掛谷誠は、遊動する「狩猟採集民の社会では、生態・社会・文化のシステム全体が<妬み>を回避するように機能して」おり、「病因論においても呪いは基本的存在せず、あってもきわめてマイナーな位置しか占めない」と述べている。彼らは妬みや恨みすら捨て去るのであろう。(p.66-67)

『人類史のなかの定住革命』


参照:http://www.asahi-net.or.jp/~zj7t-fji/book_jinruishinonakano.html

 

関連:http://hideasasu.hatenablog.com/entry/2015/05/05/222349
http://hideasasu.hatenablog.com/entry/2015/07/09/215146
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