shorebird

本書はまずダーウィンのヒトのモラルの進化についての取り組みを紹介し,そこから血縁者以外への利他性の謎を提示し,血縁淘汰や直接互恵性では説明しきれないと断ずる.そして間接互恵性やグループ淘汰が効いている可能性を指摘しつつ,どの理論にとっても最大の問題はフリーライダーの排除をどう行うかだと整理する.さらに私たちの内省的な分析によれば,私たちは道徳のルールを内面化しており,それはルールを破ってしまったときに赤面し,恥の感情を抱くことでもわかるとする.このフリーライダーの排除と(至近メカニズムとしての)ルールの内面化(つまり良心)が説明されるべき事柄になる.

 


ここからのボームの議論は以下の通りだ.


・ヒトが進化してきた小グループでの狩猟採集という環境下においては最大のフリーライダーは力の強いオス(アルファオス)による他人の捕った狩りの獲物の収奪だったと考えられる.

 ・これに対して他個体との同盟を行う能力という前適応を持っていたヒトは,下位者が協力して収奪する乱暴者を排除するという対抗策を実施するようになり,この種のフリーライダーが抑制されるようになった.その結果が今日狩猟採集民に見られる平等主義(特に威張り散らす男を嫌い,仲間外れという罰を与えると脅す.さらに凶暴な暴れ者には共謀して殺害することもある)だ.ここではアルファオスは自制の能力を持つ方が有利になった.

 ・また集団メンバーは平等主義について互いの利益になると洞察し,利他主義的に振る舞うように周りのもの,特に子供に対して強く教示するようになった.

 ・また言語と認知能力が進化した結果,うわさ話によりだれがフリーライダーなのかについて集団内で正確な情報が共有されることになった.これにより乱暴者だけでなくこずるいフリーライダーも排除の脅威にさらされるようになった.(評判による間接互恵性

 ・このような周りから収奪すると排除される可能性があり,利他的に振る舞うことについて強い教示があるという文化環境において,利他的に振る舞うことを内面化した個体はより自制しやすくなってより有利になり,恥の感情とルールの内面化(良心)が進化した.

 ・ただし更新世の環境は不安定で,常に利他的に振る舞うよりも周囲の状況(特に飢餓の程度)に応じた柔軟な利他性を持つ方が有利であったため,この内面化した利他性は文脈依存であり,時に利己性に屈服する.

 ・進化経路としては,現在手に入るデータに沿って考察するなら,ヒト・チンパンジー・ゴリラの共通祖先は,自意識,視点取得,支配と服従という能力を,さらにヒトとチンパンジーの共通祖先は同盟による連合形成能力を前適応として持っていた.そして25万年前頃,大型哺乳類を狩猟するようになって,狩猟時の協力と乱暴者フリーライダーの排除の重要性が増して上記シナリオに沿った道徳性が進化したと考えられる.

 書評 「モラルの起源」

 

関連:http://hideasasu.hatenablog.com/entry/2015/05/26/031413
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