中井久夫

整頓、清潔、少なくとも清潔化(きよめ)の儀式、整序された世界の裏側にうごめく魑魅魍魎(おばけ)の世界とそれへの呪術の干渉、そして間歇的な攻撃性と奔騰、権力と支配の秩序――これはまさに強迫症の構造そのままである。「文化にひそむ不快なるもの」(フロイト)は、もっとも早い農耕社会とともにすでに成立したというべきだろう。
われわれの社会は強迫的なもの大気のごとく呼吸しており、家庭と学校とを問わず教育なるものはとりわけ強迫症の緊縛衣を上手に着せようとするアプローチに満ちみちている。

中井久夫『分裂病と人類』)