ランボー

嘗ては、若し俺の記憶が確かならば、俺の生活は宴であった、誰の心も開き、酒という酒は悉く流れ出た宴であった。


或る夜、俺は『美』を膝の上に座らせた。――苦々しい奴だと思った。――俺は思いっ切り毒附いてやった。
俺は正義に対して武装した。
俺は逃げた。ああ、魔女よ、悲惨よ、憎しみよ、俺の宝が託されたのは貴様等だ。
俺はとうとう人間の望みという望みを、俺の精神の裡に、悶絶させて了ったのだ。あらゆる歓びを絞殺する為に、その上で猛獣の様に情容赦なく躍り上がったのだ。
俺は死刑執行人等を呼び、絶え入ろうとして、奴等の銃の台尻に咬みついた。連枷を呼び、血と砂とに塗れて窒息した。不幸は俺の神であった。泥の中に寝そべり、罪の風に喉は涸れ、而も俺が演じたものは底抜けの御座興だった。
こうして春はむごたらしい痴呆の笑を齎した。

(「地獄の季節」/小林秀雄訳)