池田晶子

ほんとうの哲学者ならば、社会革命くらいで気が治まるはずがないのだ、人は食わなきゃならないものだなんて、とっくに信じてやしないのだから。したがって、「世界を変える」ことなど、全然、手ぬるい。重要なのは、世界をすっかりチャラにすることである。「何をなすべきか」。食うことを最終的価値としているこの世の信仰を根底から転覆すること、すなわち「負の」世界革命。精神性をこそ至上と掲げる絶対観念論の復権によってのみ、この無血革命は成就されるだろう。成就したとき、この地上から人影は永遠に絶え果てるだろう、実に清浄な世界である。

(『考える人』60頁)
※太字=原文では傍点