パスカル

人間とは、一体、何んという怪物であるか。何んという珍奇、妖怪、混沌、何んという矛盾の主、何んという驚異か。万物の審判者にして愚鈍なる蚯蚓(みみず)。真理の受託者にして曖昧と誤謬の泥溝。宇宙の栄光にして廃物。誰がこの縺れを解くだろうか。

無限に比べれば虚無、虚無に比べれば一切、無と一切との中間物。

僕等は何も確実には知り得ないが、又、全く無智でもあり得ない。僕等は、渺茫(びょうぼう)たる中間に漂っている。

謙遜について謙虚に語る人は少く、貞節について純潔に語る人は少く、ピロニスムについて懐疑的に語る人は少い。

『パンセ』/小林秀雄「パスカルの『パンセ』について」より孫引き