ドストエフスキー

……やがて人々は、土の中から信じられぬくらいの収穫をひきだし、化学によって有機体を造りだし、わがロシアの社会主義者たちが夢みているように、牛肉が一人一キロずつ行きわたるようになるかもしれぬ。一口に言って、さあ飲め、食え、楽しめというわけだ。「さあ」すべての博愛主義者たちは絶叫するにちがいない。「今こそ人間は生活を保障された。今こそはじめて人間は本領を発揮することだろう!もはや物質的窮乏はないし、すべての悪徳の原因だった、人間を蝕む《環境》ももはやない、今こそ人間は美しい正しいものとなるだろう……」……だが、はたしてこうした歓喜が、人間の一世代もつかどうか疑わしい!人々は突然、自分たちにもはや生命はない、精神の自由もない、意志も個性もない。だれかが何もかも一遍に盗んでしまったのだ、ということに気づくことだろう……

(『作家の日記』)