小林秀雄

ロシアの十九世紀文学ほど、恐ろしく真面目な文学は、世界中にありません。文学は書かれたというより、むしろインテリゲンチャによって文字通り生きられた。人間如何に生くべきかという文学の中心動機だけが生きられた、と言った方がよい。ゴーゴリとかトルストイとかいう大作家を、遂に、断食で死なせたり、のたれ死をさせたりしたのも、それが為だ。

(「ソヴェットの旅」)