思想

小林秀雄

ロシアの十九世紀文学ほど、恐ろしく真面目な文学は、世界中にありません。文学は書かれたというより、むしろインテリゲンチャによって文字通り生きられた。人間如何に生くべきかという文学の中心動機だけが生きられた、と言った方がよい。ゴーゴリとかトル…

東浩紀

思想や文学に社会的に与えられている役割は、そもそもがある種のロマンティシズムの提供だからなんですよ。それを自ら封じ込め、禁じ手だらけでやってきたのがゼロ年代なんだよね。 愛とは何か、家族とは何か、人が生きるとは何か、こういうのはもともと思想…

戸坂潤

思想とはあれこれの思想家の頭脳の内にだけ横たわるようなただの観念のことではない。それが一つの社会的勢力として社会的な客観的存在をもち、そして社会の実際問題の解決に参加しようと欲する時、初めて思想というものが成り立つのである。 (『日本イデオ…

小林秀雄

実生活を離れて思想はない。しかし、実生活に犠牲を要求しないような思想は、動物の頭に宿っているだけである。社会的秩序とは実生活が、思想に払った犠牲にほかならぬ。その現実性の濃淡は、払った犠牲の深浅に比例する。伝統という言葉が成立するのもそこ…

フローベール

極度に集約された思想は詩に変ずる (小林秀雄「作家の顔」より孫引き)

東浩紀

思想の言葉は、問題を解決し、ひとを納得させるためにあるのではない。それは、新たな問題を提起し、ひとを困惑させるためにこそある。 (東浩紀・大澤真幸『自由を考える』8頁)

大岡昇平・埴谷雄高

大岡 きみは、転向したことになっているけれど、昭和三十二年の少し前からスターリン批判をやり続けていたわけだな。埴谷 もちろん転向してるわけだ。いわゆる社会革命の重要性というのが非常に小さくなって、人間全体、存在全体を革命しなきゃならないとい…

芥川龍之介

彼は彼自身の現実主義者であることに少しも疑惑を抱いたことはなかった。しかしこう云う彼自身は畢竟理想化した彼自身だった。 (「或理想主義者」/『侏儒の言葉』)

T・S・エリオット

ふつうの人が懐疑家だとか無信仰者だとか自称する時はたいていの場合何事でも最後まで考え抜く気持ちのないことをおおい隠すただのポーズである。 (『文芸批評論』)

小林秀雄

俺達は今何処へ行っても政治思想に衝突する。何故うんざりしないのか、うんざりしてはいけないのか。社会の隅々までも行き渡り、誰もこれを疑ってみようとは思わない。ほんの少しでも遠近法を変えて眺めてみ給え。これが、俺達の確実に知っている唯一つの現…

キルケゴール

ほんとうに黙することのできる者だけが、ほんとうに語ることができ、ほんとうに黙することのできるもの者だけが、ほんとうに行動することができる。 (『現代の批判』)

ニーチェ

非論理的なものが人間には必要であり、また非論理的なものから多くの善きものが出てくるという認識は、一人の思想家を絶望させるに足るもののひとつである。非論理的なものは、情念や言語や芸術や宗教や、そして一般に生に価値を与えるすべてのもののなかに…

埴谷雄高

死んだものはもう帰つてこない。 生きてるものは生きてることしか語らない。花田清輝よ。この長い歴史のなかには、組織のなかで凄んでみせる革命家もゐるが、また、組織のそとでのんべんだらりとしてゐる革命家もゐるのだ。何処に? 日向ぼつこをしてゐる樽…

埴谷雄高

人間は何故かくあるかを問うことはできない、とは、永劫の不可能の標識を掲げたいわば存在論ふうな暗い凹型の問いかけである。このような種類の問いかけを大きな特別の括弧にいれておき、自己の社会的存在についてなんらかの凸型の回答を提出し得る灰色の薄…

小林秀雄

自然の法則とは何んだ。俺が望もうと望むまいと二に二を掛ければ四になるというに過ぎないではないか。二二んが五であっても構わぬと思っている人間の手から、科学は勿論だが、どんな道徳も宗教も生れ来ない、生れてもこの世に存続出来ないとは、何んという…

亀井勝一郎

人間は実にふしぎなもので、自ら恋愛し、求めて家族をつくりあげ、やがてその中で孤独になる。「神が人間を創り給もうた。さて、まだこれでは孤独さが足りないと思召(おぼしめ)て、もっと孤独を感じさせるために妻を与え給もうた」(ヴァレリー)という言…

司馬遼太郎

日本人はどうも、社会を壊してしまうことはいけないことだ、と思っているようなのです。そして、社会を組みあげていくことが正義だと思っているらしい。一つの社会が壊れたら、すぐに新しい社会を組みあげていきましょう、ということがある。新しい社会がで…

ニーチェ

「デイオニゾス的」という言葉をもって表現されるのは、統一への衝迫であり、人格、日常、社会、現実を超え、推移の深測を超えて、摑みかかることであり、ほの暗く、充実した、漂うような状態に、情熱的に、また苦悩しつつ、充溢してゆくことである。すべて…

小林秀雄

ソクラテスの話相手は、子供ではなかった。経験や知識を積んだ政治家であり、実業家であり軍人であり、等々であった。彼は、彼等の意見や考えが、彼等の気質に密着し、職業の鋳型(いがた)で鋳られ、社会の制度にぴったりと照応し、まさにその理由から、動…

小林秀雄

科学主義というものは一と口で言えば、問題を解決する事を知って問題を提出する事を知らぬ一面的な批評主義だ。あらゆる文化は社会的等価関係の下で並列し、歴史的必然の下に進行するという包括的な世界観さえ抱いていれば、どんな質問にでも返答が出来ると…