常識

小林秀雄

文芸に関してとは限らず、人生どの方面にも保守派と進歩派とがあるものだ、菊池寛は、そのどちらにも与しなかった。ただどちら附かずの曖昧な立場に立ったのではない。保守派も進歩派も、実人生の見えないロマンチストに過ぎぬと、はっきり考えた人なのだ。…

マルクス

人間は自分自身の歴史を作る。だが、思うままにではない。自分で選んだ環境のもとでではなく、すぐ目の前にある、与えられ持ち越されてきた環境のもとで作るのである。死せるすべての世代の伝統が夢魔のように生けるものの頭脳を押さえつけている。 (『ルイ…

斎藤環

いわゆる「虚構」と「現実」との間に、本質的な区別など存在しない。ウソみたいな現実もあれば、現実以上にリアルな虚構も存在する。われわれにその区別を可能にしているのは、端的に「リアルの濃淡」という「程度の判別」にすぎないのだ。 (「虚構」は「現…

木村敏

私たちはここで、常識的日常世界の「世界公式」というべきものを考えてみたいと思う。この公式は形の上ではこの上なく単純なものである。1=1これが私たちの「世界公式」にほかならない。しかしこの公式は、形の上ではいかに単純であろうとも、内容的にはた…

管仲

倉廩満ちて礼節を知り、衣食足りて栄辱を知る (『管子』)

芥川龍之介

その代わりに我々人間から見れば、実際また河童のお産ぐらい、おかしいものはありません。現に僕はしばらくたってから、バッグの細君のお産をするところをバッグの小屋へ見物にゆきました。河童もお産をする時には我々人間と同じことです。やはり医者や産婆…

M・マノーニ

精神障害児は≪狂人≫のレッテルが自分に貼られていることを知っていて、そのレッテルが彼から自己同一性を奪い、彼の言動にある種の無責任性を与える。……彼の精神病反応は他者と共同でつくられたものだ。つまり自分の≪病状≫の重さがまわりから認められるのを…

小林秀雄

つまり言葉の実践的公共性に、論理の公共性を附加する事によって子供は大人となる。 (小林秀雄「様々な意匠」)

養老孟司

第六感とかが問題になるのは、唯一客観的な現実として、論理で世界が構築できるという前提が先にでき上がっている人が、実際は違うかもしれないということを発見するときの一種の発見の仕方ではないか。

内田樹

ことばはつねに「この観念を生んだ種族の思想――すなわちものの考えかた、世界と人間のとらえかた――を濃厚にふくんで」います ただ、ふつうに母国語を使って暮らしているだけで、私たちはすでにある価値体系の中に取り込まれている。 (内田樹『寝ながら学べ…

共通感覚はラテン語の“sensus communis”からきていて、アリストテレスもいっていますが、五感すべての基礎にあって共通する一つの感覚です。英語で“common sense”で、これは「常識」と訳されて対人関係を調節するセンスの意味で使われています。しかし私は、…

斉藤環

(ひきこもりの問題とは――引用者注)社会的な自明性が衰弱していることにあると言えるかもしれない。 (斉藤環「ひきこもりと社会性」)

分裂病者の基底に、世界内存在としての人間を支えている「自然な自明性」の喪失を認め、それを分裂病性疎外とよぶ。自明性の喪失はまた、世界に根をおろし、世界と親しむこと、つまり「常識」(コモンセンス)の病理でもある。 (『精神病を知る本』・フラン…

精神医学のもっとも基底にあるテーマが、逸脱と適応であるとすると、それは当然、わたしたちの社会の常識(共通感覚/コモンセンス)を核にすえたものとならざるをえない。これに反(アンチ)をとなえ、常識を解体し、分裂病者という疎外された少数者のがわに…

木村敏

反精神医学がその特徴としている常識解体をどこまでも首尾一貫して推し進めれば、それは必然的に社会的存在としての人間の解体というところまで到達せざるをえず、したがってまた、個人的生存の意志という、生物体に固有の欲求の否定に到達せざるをえない………

小林秀雄

自然の法則とは何んだ。俺が望もうと望むまいと二に二を掛ければ四になるというに過ぎないではないか。二二んが五であっても構わぬと思っている人間の手から、科学は勿論だが、どんな道徳も宗教も生れ来ない、生れてもこの世に存続出来ないとは、何んという…