ニーチェ

デイオニゾス的」という言葉をもって表現されるのは、統一への衝迫であり、人格、日常、社会、現実を超え、推移の深測を超えて、摑みかかることであり、ほの暗く、充実した、漂うような状態に、情熱的に、また苦悩しつつ、充溢してゆくことである。すべての転変のうちにあって同じであるもの、同じように力強いもの、同じように浄福であるもの、である生の全性格に対して、歓喜して肯定することである。大きな汎神論的な同楽同憂の共感であり、それはまた、最も恐るべき、そして最も問題を含む、生のもろもろの特質を是とし、神聖化するものである。生むこと、実ること、回帰すること、への永遠の意志であり、創造と否定との統一感情である。
アポロ的」という言葉をもって表現されるのは、完璧な即=自=在への、典型的な「個」への単純化し、抽出し、力強く明瞭に曖昧ではなく典型化する一切のものへの、衝迫であり、法則の下における自由である。
これら二つの、自然=文化力の相反に、芸術の生殖作用というものは必然的に結びついているのであり、そのことは、人間の生殖が両性の相反に結びついているのと同じである。力の充実と抑制、冷たく、高貴で、控目の美における自己肯定の形式。ギリシャ的意志のアポロ主義。

(「ディオニゾス的とアポロ的」/ニーチェ『生への意志』 『若き人々への言葉』(原田義人訳)より)

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