永井均

「それはよくわかるけど、さっきの欲望と意志の葛藤の話は結局どうなったんだっけ?」
「だから、欲望を肉体的で感性的な低次元のもの、意志を精神的で理性的で次元の高いものって考えるのをやめちゃえば、そんな対立なんてないのさ。禁煙してる人の例で言えばね、たばこを吸っちゃうときだって、吸おうとする意志を持ってそうするんだし、吸わないときだって、吸いたくないって欲望を持ってそうしているんだよ。だから、二つの欲望の葛藤って考えたって、二つの意志の葛藤って考えたってかまわないんだ。そしてね、どちらが勝つにしても、ただそうなったってだけなんだけど、ただそうなったことを、意志的に解釈する枠組みと欲望的に解釈する枠組みがあるってことさ。」

 『翔太と猫のインサイトの夏休み』