戸田山和久

現在、多くの人々が市民的自由を行使することと、自己責任を引き受けることを直結させている。「誰があんたにそれをしろと強制しました? あんたが自分で選んだんだから、その結果どうなろうとあんたの自己責任でお願いしますよ」という具合。しかし、これまでの考察が正しいなら、意志の自由の概念がなく、したがって責任を負うとかとらせるという実践もなく、だけど市民的自由は保障されている社会はありうる。私にはこの社会はなかなかいい社会に思える。
むしろ、ディストピアはその逆、つまり市民的自由は制限されている一方で、みんな責任だけはとらされる社会だ。だとすると、われわれの現実はもうすでにディストピアなのかもしれんよ。ペレブーム的な自由意志なき道徳の構想に私が魅力を感じるのは、こういう理由があるからだ。(p.395)

『哲学入門』

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