中山元

ニーチェの真理の理論は、真理の概念におけるこの欺瞞性を暴く。系譜学は、真理を絶対的なものとして考えるのではなく、さまざまな力の競合と対立関係の中で成立する〈暴力の帰結〉と考える。ニーチェは真理とは、階級対立の結末であり、人間が他の人間を支配すると、そこに価値体系が形成され、真理という観念が生まれてくると考える。
系譜学は価値体系の背後にある暴力的な対立に注目することによって、真理が中性的で無害なものではなく、さまざまな力が抗争する力動的な場と考えるものである。ニーチェが明らかにしたのは、真理とは戦いの武器であるということだった。一つの階級が他の階級を支配するために利用する武器であり、支配されている階級が支配を覆すために利用する武器でもある。「真理」とは論駁されないという特徴をもつ誤謬にすぎず、歴史的な価値をもつものにすぎない。系譜学は、こうした伝統的な真理という概念を解体しようとするのである。
同時に系譜学は、真理は歴史的な遺産として、われわれの身体に刻み込まれていることを明らかにする。身体とはさまざまな事件が刻み込まれる平面であり、歴史が刻み込まれる場であるだけに、真理という概念を無自覚に使用することには大きな危険性がともなうのである。

『フーコー入門』

強調引用者