パオロ・マッツァリーノ

働かざる者、食うべからず。よく耳にする言葉です。なんだか、どえらい昔からある金言・格言のひとつと思われがちですが、じつは日本人がこんなことをいい始めたのは、明治以降のことなのです。少なくとも、江戸時代以前にこんなことを口にした日本人はいません。なぜなら、江戸時代にこれを口にしたら、お上に引っ立てられていたでしょうから。

なぜかといえば、この言葉、聖書の中の一節だからなのです。もし、江戸時代に「働かざる者、食うべからずだ」などと口走ったものなら、「きさま、隠れキリシタンだな! 引っ立てい、改宗せねば、打ち首獄門じゃ!」というハメになったはずなのです。

新約聖書の「テサロニケ人への手紙」の中で、パウロが宛てた手紙に登場するのが、「働かざる者、食うべからず」の言葉です。文献中に見られるうちでは、これが最も古いようです。(…)

日本では明治以降に、西洋文化とキリスト教にかぶれた人たちが「働かざる者……」といい出したのです。

  『反社会学講座』