松尾豊

グーグルは人工知能にネコを認識させる研究を2012年に発表しました。ユーチューブの動画から1000万枚のネコの画像を取り出してコンピュータに入力、処理を繰り返させるというものです。研究では階層が奥にいくにつれて目や耳の認識、人間を含めた「顔」の認識、ネコの顔の認識、という具合により高いレベルの概念を獲得し、最終的に人工知能はネコに反応するという結果が得られました。ネコの特徴を人間に教えられることなく、画像に内在する特徴を自動的に見つけ出して「ネコとはこういうものだ」と独力で理解したわけです。

 

この技術が進めば、画像だけでなく音声やセンサーを通じてネコの鳴き声、手触りも含めて理解するようになるでしょう。その理解した概念に「ネコ」という言葉を付与すれば、ネコという概念と言葉をコンピュータ上で結び付けることができます。それまではネコという概念をコンピュータに取り込ませるには、「ネコと呼ばれる」「ニャーと鳴く」「哺乳類である」「柔らかい」といった記号を人間がひたすらインプットしていかなければいけなかったので、まったくアプローチが異なるわけです。

 

言語学者のソシュールは、記号はシニフィエ(概念/意味されるもの)とシニフィアン(記号表現/意味するもの)が一体となって成り立つと説きました。その文脈でいえば、それまでシニフィアンにとらわれていた人工知能研究が、ディープラーニングの登場によってシニフィエシニフィアンの統合という、さらに深い理解を可能にしたといえます。50年来のブレークスルーだというのは、そういう背景があるからなんです。

人工知能テクノロジーの現状と可能性
“50年来のブレークスルー”ディープラーニングとは

 

参考:シニフィアンとシニフィエ - Wikipedia

関連:http://hideasasu.hatenablog.com/entry/2015/06/01/212652