ランボー

前世紀には俺は誰だったか。今在る俺が見えるだけだ。もはや放浪もなくなった。
当てどのない戦もなくなった。劣等人種はすべてを覆った、――所謂民衆を、理性を、国家を、科学を。
そら、科学だ。どいつもこいつも又飛び附いた。肉体の為にも魂の為にも、――臨終の聖餐、――医学もあれば哲学もある、――たかが万病の妙薬と恰好を附けた俗謡さ。それに王子様等の慰みかそれとも御法度の戯れか、やれ地理学、やれ天文学、機械学、化学……
科学。新貴族。進歩。世界は進む。何故逆戻りはいけないのだろう。
これが大衆の夢である。俺達の行手は『聖霊』だ。俺の言葉は神託だ、嘘も偽りもない。俺には解っている、ただ、解らせようにも外道の言葉しか知らないのだ、ああ、喋るまい。

『地獄の季節』

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