玄侑宗久

「不測に立ちて無有に遊ぶ」。荘子によると明王はこれで国を治めたと言いますが、もちろん実際の政治においてはありえない考え方でしょう。政治の仕事とは予算を立ててそれを執行することです。予算を立てるということは、まだ起きていないことを予測し、実現の計画を立てるわけです。そこで「不測に立ちて無有に遊ぶ」を実践することは難しい。ただ、個人においては、考えてみる価値は充分にあるのではないでしょうか。今の日本では、仕事でも家族のスケジュールでも、誰もが計画を立てすぎているように感じることがあります。いろいろなことがあまりにも細かく決まっているため、氣で感じるとか、直観に頼るといった機会がないのではないでしょうか。


「無有に遊ぶ」に込められた意味は、未来はここにはないのだから、「ないという今を遊ぶ」ということです。多くの人は、今日やるべきことが終わると、明日やることをつい引き寄せてしまいます。「明日できることは今日やらない」という強い信念がないと、人間は休めない。「無有に遊ぶ」とは、忙しい現代の私たちにとっても大事な教えなのです。

『NHK100分de名著 荘子』


参照:http://textview.jp/post/culture/20439

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http://hideasasu.hatenablog.com/entry/2015/05/18/015548